サケ

(サケ科 サケ属)

Oncorhynchus keta Walbaum, 1792

サケ雄の闘争(利根川)

雄の闘争

オリンパスE-3 ZD7-14(7)/4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

利根川 11月 水深15cm

 サケというと北海道のイメージが強いですが、太平洋側では利根川以北(栗山川のものは移入らしい)、日本海側では佐賀県の松浦川、玉島川あたりから北に広く分布しています。

 利根川はもともと東京湾に注いでいましたが、文禄年間(安土桃山時代)から始まった数次にわたる大規模な工事により、銚子に付け替えられました(利根川東遷事業)。これにより鬼怒川、渡良瀬川、旧利根川などがまとめられ、現在の利根川本流にもサケが上るようになったと考えられます(江戸時代以前には鬼怒川に上っていたらしい)。

 戦中から戦後まもなくはサケが乱獲され減少しましたが、昭和26年、水産資源保護法が制定され、許可なく内水面でサケを採捕することは禁止されました(違反者は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金。併せて、各都道府県の漁業調整規則でも採捕禁止となった)。

 昭和39年、東京オリンピックを目前にして大渇水が生じました(いわゆる「東京砂漠」)。これに危機感を募らせた政府は、堰と用水路の建設を急ぎ、昭和43年までに利根大堰・武蔵用水・埼玉用水など一連の水利施設を完成させました(これにより利根川から東京への導水が実現)。それまでは利根川も水量が豊富で、サケがそれなりに遡上し、利根大堰よりもさらに上流の本庄市や伊勢崎市付近で産卵していたといいます。しかし、水量減少と水質悪化が相まってこれ以降サケは激減し、昭和40年代から50年代は少ない状況が続きました。

 利根大堰の当初の魚道は魚が上りにくい構造で、魚道でのサケの遡上調査を開始した昭和58年には、21匹しか遡上しませんでした(一方、堰の下流では自然産卵があり、密漁が頻繁に行われていた。)。

 対策としてサケ稚魚の放流と、魚道の改修が行われました。併せて下水道や合併処理浄化槽の普及により、水質改善が進みました。

 サケ稚魚の放流は、昭和56年から平成8年までは北海道産、平成9年から19年は福島産、平成20年からは利根川産を用い、数を減らしながら行われてきました。ところで、日本のサケは、①北海道系統、②三陸系統(仙台湾以南と牡鹿半島以北では異なる系群らしい)、③日本海系統、に分けられますが、これらは性質が異なり、北海道の系統は高温に弱いようです。したがって、北海道系統は利根川ではあまり生き残れなかった可能性があります。

 平成7-9年にかけ利根大堰の3基の魚道が順次改修され、平成8年頃から利根大堰魚道の遡上数が数百に増えました。遡上数は平成17年頃から急増し、近年は1万前後のサケが遡上しています。

 現在の利根川のサケは、福島産の子孫が相当含まれるのではないかと思われます。しかし、今後、温暖化が進んでいくと、南限付近のサケは絶滅するおそれがあります。北海道でもいずれは仙台湾以南の高水温に強い系群が主流になっていくかもしれません。

 さて、利根川本流の撮影地は、お世辞にも透視度がよいとは言えず、せいぜい50-60cm程度で、コントラストも低いです。水のきれいな川とは勝手が違うので、広角レンズでギリギリまで寄る必要があります。

 下流側から川に入り、岸寄りの産卵床を探します。産卵床はかなり浅い場所にあります。サケは、そうした浅場を掘って深くし、産卵床をつくります。サケ自体は容易に見つかるのですが、簡単に出会えるのは産卵後の個体で(いわゆる「ホッチャレ」:定位しているだけでほとんど動かない)で、繁殖行動を間近で撮影するには忍耐を要します。浅場なので浮くこともできず、重いカメラを抱えて匍匐前進しながら、産卵床を探します。ちなみに、産卵を終えた(死を待つ)ホッチャレは雌雄とも体表を水生菌に冒され、生気が乏しく(体表の光沢が乏しく、慣れれば判別できます)、雌は腹は凹み、前述のように定位してあまり動きません。

 写真は、闘争する雄です。産卵床を掘る雌がおり、その下流で闘争しています。最初はフラッシュに驚きますが、2,3回焚くと全く気にしなくなります。こちらがじっとしていると、目の前で激しく闘争します。水深は15cm程度しかありません。

 闘争は2匹の小競り合いが中心で、平行に泳ぎ、相手個体の上を通って左右に入れ替わります。この際に相手の尾柄部に噛みつくことがあります。また、回り込むように泳ぐ回転闘争も見られます。このような闘争は少なくとも1時間は続きました。闘争は主に産卵床の直下流で行われましたが、場所を変えることもありました(必ず戻ってきます)。なお、放精を終えたホッチャレ雄は、闘争対象とされません。

サケ産卵(利根川)

産卵

オリンパスE-3 ZD8/3.5 f8 1/30 自然光

利根川 11月 水深15cm

 サケは魚体が大きいため、直近まで寄ると超広角でも画面に入り切りません。このため、魚眼レンズに切り替えることにしました。

 いかにも産卵しそうなごく岸寄りの穴を発見したので、ここで張ることにします。水深は10-15cmほどで、流れが当たるところです。既に、径1mほどに掘られて少し深くなっています。産卵床を掘ることで淵頭のようになり、水通しがよくなります。「この産卵床の上端で必ず産卵する」と確信して待ちますが、なかなかサケが寄りつきません。2時間ほど我慢して、ようやく雌がやってきて穴を掘り始めました。穴の中の最上流部、中央部、下流部と上流側から穴を掘っています。雌を観察していると、尻ビレを伸ばして穴の深さを確かめていますので、ここを産卵床と定めていることは間違いありません。しかし、なかなか雄がやって来ません。さらに待っているうちに、ふっと1匹の雄が現れました。あっという間にペアリングです。他の雄はやってこず、闘争は起きませんでした。あとは産卵を待つだけです。カメラがぐらぐらしないよう、カメラの下部に礫を噛ませて安定させます。ポートに触れんばかりに接近していますが、先方はすっかりこちらに慣れ、かつ、繁殖に集中していることもあり、逃げることはありません。むしろ問題は電池の消耗で、フラッシュのチャージがかなり遅くなっています。ここで電池交換のため引き返すと、サケは逃げてしまうでしょう。このため自然光も覚悟してそのまま待機し、シャッタをあまり切らないようにします。あいにく曇天で、早いシャッタは切れません。

 雌は同じ場所を掘り続けています。穴はだんだん深くなり、その都度、尻ビレで深さを確かめています。雄は小刻みに口を噛み合わせながら雌の頭部側面を突き、産卵を促しています。これはサケ類に共通の行動のようです。何度かそれが繰り返された後、突如産卵に入りました。写真はその様子です。まず卵が出、次いで放精し、周囲が白濁します。この間20秒くらいでした。しかしながら、産卵の瞬間からフラッシュの電池が切れ、自然光撮影となりました。シャッタ速度は1/30ですが、何とか写っていました。通常ならぶれるシャッタ速度ですが、カメラを水中に固定していたこと、魚眼レンズであったことから、ブレがほとんどありませんでした。

 産卵後、雌は直ちに尾びれで卵を埋め戻します。産卵床を掘るよりもずっと早いペースで、「一刻も早く受精卵を隠さねば」という本能なのでしょう。雄はしばらくは現場にとどまっていましたが、やがていなくなりました。

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