本種は木曽川水系、淀川水系及び富山湾周辺に棲息する比較的大型のタナゴです。ゼニタナゴに近縁で、秋産卵型です。大型河川では、湾処やタマリに棲息し、本流には見られません。つまり、一時的水域をすみかとする氾濫依存種です。
富山湾周辺では、放生津潟(射水市)などで過去にはたくさん見られたようです。昭和38年に発行された中村守純先生の「原色淡水魚類検索図鑑」(北隆館)では、放生津潟産のイタセンパラの雌雄の生態写真が掲載されています。この写真では、雄の婚姻色が極めて濃厚なのが印象的です。放生津潟は干拓や開発により全く姿を変え、現在は富山新港になっています。イタセンパラは昭和33年を最後に確認されていません。遊覧船でこの辺りを一周しましたが、潟は海に、流入河川(内川)は運河となっており、ここにかつてたくさんのイタセンパラがいたとは到底信じられないほどです。
さて、本種は極めて警戒心が強く、水槽に入れていてもなかなか慣れないそうで、人影に驚いて右往左往します。このため、実際の生息地での撮影はかなり忍耐を要することは覚悟していました。案の定、水中に入ってしばらくは全く目視できず、目視するだけで1時間程度はかかりました(透視度が50cm程度しかない、というのもありますが。)。もちろんここで確認した魚類で最後の登場でした。
タイリクバラタナゴなど他のタナゴ類に比べると圧倒的に少ない印象です。個体数が少ない上、雄は結構な早さで泳ぎ回っているため、なかなか図鑑写真を撮ることができず、粘りまくって唯一撮影できたのがこれです。威嚇行動の時でもない限り、なかなかヒレを開きません。
フィールドでの雄個体はヒレが黒く、その中に水色のラインが入ってなかなかの美しさです。
以下はその繁殖行動です。産卵までは確認しておりません。
縄張りを持っていないと思われる雄は広範囲をかなり高速で泳ぎ回っています。移動の時は水底ぎりぎりを泳ぎます。その動きはアジ類(特にギンガメアジの幼魚)に似ており、尾ビレを小刻みに振ります。泳ぎ自体は直線的です。他のタナゴ類のように群れず、各個体が独立した行動を取っています。
繁殖期になぜこのような高速遊泳をするのかはよく分かりません。他の縄張りに侵入して放精するスニーカーである可能性はありますが、確認できていません。
砂底にところどころくぼんだ場所がありますが、そこが貝の「目」であり、イシガイが潜んでいます。
繁殖期になぜこのような高速遊泳をするのかはよく分かりません。他の縄張りに侵入して放精するスニーカーである可能性はありますが、確認できていません。
貝覗きをやり始めると他のことはあまり気にならないらしく、寄っても動じません。なお、通常の状態でもイタセンパラはフラッシュには動じません。
イシガイはたくさん潜んでいるのですが、初めのうちはあちこちで貝覗きを行います。そのうち特定の貝を覗く時間が長くなり、その貝を気に入るようです。すると近くに寄ってくる他のイタセンパラ雄はもとより、タイリクバラタナゴなど競合の可能性のある種や、タモロコまでも追い払い始めます。こうして縄張りが形成されます。
縄張りの範囲は貝を中心に50cm-1m程度と思われますが、濁りで遠くが見通せないため、どのあたりまで侵入者を排除しに行っているか、(あるいは雌を誘いに行っているか)は明確には確認できていません。ただ、当方が目視できない個体にも攻撃をかけに行っていたので、少なくとも透視度である50cm以上は感知しているものと考えられます。
縄張りはせいぜい数時間程度しか維持されないようです。また、夕方になると縄張りは放棄され、タナゴたちはちりぢりになります。
小型の(若い?)雄です。発色は大型の個体とは異なり、婚姻色は薄いですが、生気はより強い感じです。小型の個体も縄張りを形成します。
縄張り雄はヒレを全開にして侵入雄を追い払います。
侵入者が小さな雄である場合には突進して追い払うだけですが、同じくらいの大きさの雄が侵入したときには回転闘争や平行遊泳が見られます。
回転闘争の場合は互いにヒレを全開にし、ゆっくり回転しながら上昇します。これは瞬時に勝負が付いてしまうため、カメラを向けたときには闘争は終わっており、結局撮影できませんでした。
縄張り雄は非常に素早く他個体の攻撃に出向くため、カメラではとても追い切れません。もし撮影しようと思えば、侵入雄の方に照準を合わせておかねば無理です。
唯一撮影できた平行遊泳です。後方が縄張り雄で、ヒレを全開にしています。一瞬で侵入者は逃げます。
縄張り付近を雌が通ると、雄は誘いに行くようですが、誘い出す瞬間は目視できませんでした。
雌は目立たないせいもあって(透視度の悪い水中ではギンブナと見分けがつきにくい)、雄の縄張りに誘い込まれた時以外はあまり見かけませんでした。尻ビレが黄色いのが特徴です。雌単独を撮影しようとしても複数の雄がちょっかいを出すため、撮影できていません。
雌の産卵管は2cm程度で、あまり長くありません。
雄はヒレを震わせて求愛します。ひときわ婚姻色が強く出てきます。
文献では、雄はかなりの頻度でプレスキミング(産卵前放精)を行う、とありますが、確認できませんでした。
雄が後方に付き添い、雌が貝を覗き始めました。当方が体勢を変ても動じることはありませんでした。外部を全く気にすることなく繁殖に集中しているようです。
貝覗きは30秒~1分ほどでしたが、この間も雄はヒレを震わせていました。産卵前に行うとされる雌の「逆立ち」は確認できませんでした。
雌が遁走する瞬間です。雌は何らか気に入らないことがあったようで、産卵には至らず、猛烈な勢いで逃げてしまいました(突然「跳ぶように」逃げます)。
その後も雄はしばらく縄張りを守っておりましたが、程なくしてこの縄張りは放棄されました。ただ、一度雌に逃げられたからといって、必ず放棄されるわけではなく、再度同じ貝に雌を連れてきた雄もいました。