ホンモロコ

(コイ科 タモロコ属)

Gnathopogon caerulescens (Sauvage, 1883)

ホンモロコ1(琵琶湖)

絶滅危惧IA

ヤナギの根のそばで待機するホンモロコの雄

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

琵琶湖 6月 水深20cm

 琵琶湖の固有種で、コイ科魚類の中では最も美味とされています。素焼きにして酢醤油をかけたものを食べたことがありますが、癖のない白身で、止められないほど美味い魚です。

 本種はかつては琵琶湖の主要な漁獲物として年間200-400t程度水揚げされていましたが、平成7年頃から激減し、平成16年以降は年間数t程度で推移しています。かつては「アホ待ち」といって、湖岸でたも網を持ってアホのように待っていれば水際に乗り込んで産卵する本種を簡単にすくえたため、これが春の風物詩になっていたとのことですが(滋賀県立琵琶湖文化館編『湖国びわ湖の魚たち』第一法規、昭和55年)、現在産卵が行われる場所は局限されています。

 ホンモロコに限らず、琵琶湖の魚類相が大きく変わったのは、オオクチバスが激増したこと(それに伴いブルーギルも増加したこと)、平成4年度から瀬田川洗堰による水位調節が始まったことなどが考えられます。これに加え、ホンモロコに関しては、主たる産卵地であった琵琶湖南湖が平成6年渇水を契機に水草で覆われ、稚魚の成育場所であった砂底が失われたことが大きく影響していると考えられます。かつては琵琶湖じゅうのホンモロコが大挙集結して(「音を立てて集まっていた」という人もいる)南湖で産卵していたのですが、この一大産卵地は平成7-10年頃に壊滅してしまいました。

 瀬田川洗堰の操作は、梅雨期の洪水を防止するため、6月15日の水位-20cmを目指して、5月中旬より、それまで+30cmに維持されていた水位を下げていくというものです(つまり1箇月で50cm下げる)。南郷洗堰の時代(平成3年度まで)は6月15日の水位目標が0cmでしたので、この時代よりはさらに20cm下げることとなったわけです。本種は卵を他の魚などに食われないよう、水際の抽水植物や木の根に産卵します。波で水をかぶる程度の浅い場所です。孵化までには1週間から10日ほどを要しますが、毎日水位が1-2cmずつ下がっていくと、この間水位が10-20cmほど下がってしまい、卵が干上がってしまうのです。このため、平成15年度より、洗堰操作の改善が試行されています。4月下旬から水位低下操作を始めたり、大産卵が確認された場合にはしばらく水位を維持するなど、現在も試行錯誤が続けられていますが、ホンモロコの回復には至っておりません。

 南湖の水草繁茂については様々な研究がなされており、これらを総合しますと以下のような要因・経過となります。

 ①昭和30-60年代に南湖の富栄養化が進み、底質に栄養塩類が蓄積

 ②平成4年の瀬田川洗堰操作開始に伴い、夏季の水位が低下し、光量が増加

 ③平成6年の大渇水で光量が大幅に増加し、これが引き金となって水草が繁茂開始

 ④水草の繁茂により、植物プランクトンの減少(競争に負ける)、流速低下による浮遊物の沈降、が引き起こされ、さらに透視度が上昇

 ⑤さらに水草が増えて平成14年頃には極相に到達

 ⑥底質の泥質化が継続して進行

 平成6年の渇水を引き金として、様々な要因が重なり、レジームシフト(生態系のジャンプ)が生じたと考えるのが妥当でしょう。

 水草が増えれば、これを主食とするワタカや、夏季に水草をよく食べるフナ類が増えてもよさそうなものですが、実際にはワタカは激減し、フナ類も平成5年頃から漸減しています。これはバス、ギルの激増や瀬田川洗堰による水位操作が影響していると考えられ、水草の増大を抑制できない状態と思われます。

 ホンモロコの減少は、瀬田川洗堰の水位調節による卵の干出が引き金となり、続いて南湖の水草繁茂が稚魚の生育環境を奪ったことで大幅に促進され、外来魚の影響等により回復できる要因が阻止されている、というのが大まかなシナリオではと推測されます。

 ホンモロコに取って代わるようにワカサギが増え、平成16年以降、ホンモロコの漁獲量は年間数t程度ですが、ワカサギは年間100-500tほど漁獲されています。ホンモロコ激減で空いたニッチに移入種のワカサギが入り込んだと考えられます。

 さて、本種はプランクトン食であるため、普段は広い琵琶湖を回遊しており、撮影するには産卵のため接岸したところを狙うしかありません。撮影には何度も挑んでいたのですが、風波が激しく湖中が濁って水中で目視すらできなかったり、目視はできても素早くて撮れなかったり、日によっては水温が低くて接岸すらしていなかったりとなかなか思うように撮れませんでした。このたび、よいコンディションに恵まれてようやく撮影することができましたが、産卵は確認できておりません。

 当初は見つけさえすれば撮影はタモロコ同様に簡単だろうと高をくくっていました。しかし本種は警戒心が強いうえ高速で泳ぎ、この点でもタモロコとは全く違うと思い知らされました。

 これまでの観察から、雄はヤナギの根の下に待機していることは分かっていたのですが、どうやらこれは少数派のようです。こういう場所にいる雄は警戒心が強く、近づくとすぐに逃げてしまうので、彼らにとってはあまり落ち着ける場所ではないようです。待機する場所は、2本のヤナギの根と根の間が谷のようにえぐれていて、波が来た際に浅瀬に直結する場所です。そうでない場所には待機していません。波に洗われるので写真のように砂礫底となっています。また、ヤナギの根と根の間で、急に深くなっているような場所でも根の下(オーバーハング)に待機していることがあります。待機しているのは雄で、雌は確認できていません。雌が乗り込んできたらすぐに産卵に参加するのだと思われます。小型個体が多いようで、サケ科魚類でいうスニーカー的な存在なのかもしれませんが、何とも言えません。

 水中では遠目にはビワヒガイに似ているのですが、ビワヒガイが石の上などを頻繁につつくのに対し、本種はプランクトン食のため、そのような行動を取りません。また、ビワヒガイが前傾姿勢で底層をちょこまかと移動するのに対し、本種はそれよりも上を(ただし、オイカワの遊泳層よりは下層)、水平かつしなるように優雅に泳ぎます。このため、水中の挙動で両者を比較的容易に見分けられます。

石のそばで待機するホンモロコの雌

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

琵琶湖 6月 水深70cm

 雌がどこに待機しているのかがこれまで謎だったのですが、岸から少し沖合で、障害物がある場所の周りを群れでうろうろしているところが確認されました。群れは雄雌混成で、規模は10匹程度でした。大きめの石がごろごろしているような場所です。場合によっては写真のように着底すれすれでじっとしています。産卵前に体力を消耗したくないのでしょう。

 雄と比べて腹が大きいのが分かると思います。

 こういう場所にいる個体はあまり逃げませんので、ここが落ち着く場所なのだと思われます。なので、比較的楽に撮影できました。産卵を控えたホンモロコは、沿岸を広く遊泳しているというよりは、こういう場所で待機していると思われます。産卵を観察できなかったので、何が引き金となって雌が岸辺に突進するのかは不明です。

ホンモロコの卵

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

琵琶湖 6月 水深0cm

 水深0cmの場所で、波をかぶった瞬間に撮影したものです。卵はこういう場所に集中しています。卵を喰うヨシノボリ類も上ってこられませんし、波が来ることによって酸素も供給されます。しかし、孵化する前に水位が低下してしまうと干上がって死んでしまいます。孵化が先か、水位低下が先か、が彼らの運命の分かれ目です。

 一部発眼しているのもありますが、多くは産んでから日が浅いようです。6月初旬、既に水位低下が始まっています。この卵は無事に孵化できたでしょうか。

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