カンキョウカジカ

(カジカ科 カジカ属)

Cottus hangiongensis Mori, 1930

カンキョウカジカ(富山湾流入河川)

絶滅のおそれのある地域個体群

カンキョウカジカ

オリンパスE-3 ZD50/2マクロ f8 1/125 Z-240×2(TTL)

富山湾流入河川 9月 水深30c

 カンキョウカジカの「カンキョウ」とは朝鮮民主主義人民共和国の咸鏡(ハムギョン)道が由来で(種小名にハムギョンが入っている)、日本では同じ緯度に位置する北海道に分布の中心があります。秋田県以南では飛び地的にしか棲息せず、新潟では佐渡島にしか分布していないにもかかわらず(本土側では記録されていない)、なぜか富山ではそれなりにまとまって棲息しているという不思議な魚です。「東北・北陸地方のカンキョウカジカ」として絶滅のおそれのある地域個体群に指定されています。

 本種は原則として両側回遊の生活史を持つため、対馬海流に乗って分布が拡大しても不思議ではないのですが、そういうわけでもなさそうで、ある程度の母線回帰性があるのではとも言われています。

 さて、撮影地点は急流部で、大きな機材を抱えて撮影するにはかなり厳しい場所でした。少しでも楽な撮影場所はないかとあちこち観察して回るのですが、そのうち不思議なことに気づきました。同じような環境(流れの速い瀬、浮き石)であるにもかかわらず、カンキョウカジカがいる場所は決まっていて、それ以外の場所では全く見られません。そのうち、カンキョウカジカがいるのはイシマキガイが棲息し、その卵が産み付けられている場所であると気づきました。同じような場所でイシマキガイがいないところでは、カジカ中卵型を確認したのみです。カンキョウカジカの特徴的な斑紋は、イシマキガイの卵が孵化した跡に似ているため、何らかの関連がある(卵嚢がある石がある場所に集まる?)のかもしれないと勘ぐりました。

 別の日に違う川に行ってみました。この川ではカジカ中卵型を狙うつもりで、やや海から離れた地点を選びました。ここにもカンキョウカジカはいました。ただ、やや上流なので、イシマキガイは棲息しておりません。カンキョウカジカは早瀬に、カジカ中卵型は主に平瀬に(早瀬にも多い)棲み分けている印象です。カンキョウカジカの個体数はあまり多くありません。カンキョウカジカはイシマキガイの生息する場所にしかいないわけではありませんでした。

 カンキョウカジカの分布の中心は上記のとおり北海道で、北海道にはイシマキガイは分布しません(北限は新潟県で、同県では佐渡島と本土北部で確認されている)ので、カンキョウカジカの棲息にイシマキガイが直接関係している訳ではないでしょう。ただ、カンキョウカジカが飛び地の富山にまとまって分布するのは(遺存種か?)、イシマキガイの存在が何らか有利に作用しているのかもしれません(幼魚の斑紋はより顕著なので、河口域での幼魚の保護に役立った?)。

 本種は他のカジカ類と同様、石をどけると素早く逃げてしまいます。早瀬でカメラを構えていてもじわじわ押し流されますし(ピントが狂う)、しかも急流にカメラを突っ込むと気泡が発生するので、撮影には手こずりました。

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