ニッポンバラタナゴ

(コイ科 バラタナゴ属)

Rhodeus ocellatus kurumeus Jordan & Thompson, 1914

ニッポンバラタナゴ1(嘉瀬川)

絶滅危惧IA

1.ニッポンバラタナゴの雄

オリンパスE-3 ZD12-60(14)/2.8-4 f8 1/60 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 タイリクバラタナゴとの交雑により絶滅が危惧されている日本固有の亜種です。両亜種は容易に交雑してしまうため、純系の本亜種は滋賀県では絶滅、大阪府や香川県ではため池にわずかに残存しているのみとなっています。九州北部では水系によっては現在でも普通に見ることができます。しかしながらタイリクバラタナゴの遺伝子は少しずつ広がっており、予断を許しません。店から買ってきたタイリクバラタナゴを飼えなくなったからといって放流することは厳に慎まなければなりません。

 両者は外見だけでは区別できないとされ、正確な識別にはアイソザイム分析や遺伝子の解析が必要とされています。よく知られている「タイリクでは腹びれに白線が出るが、ニッポンは出ない」というのも、決め手とはなりません。側線有孔鱗の数が0の個体ばかりだとニッポンの可能性が高いですが、これも完璧ではないそうです。

 さて、この撮影地ではニッポンバラタナゴと思われる個体を多数確認しました。ここの個体群については過去にアイソザイム分析がなされ、純系との結果が出ています。しかしその後、水系上流部でタイリクの遺伝子を持った個体が発見されており、汚染拡大が懸念されます。

 婚姻色の出た雄についてはニッポンバラタナゴの特徴が比較的分かりやすくなります。

 ①体色の赤みは紫よりも朱色に近い色を呈すること(赤レンガ色)

 ②各ヒレが黒っぽくなること(特に腹ビレ)

 写真の個体はニッポンバラタナゴと見なして差し支えないと思います。

 ご覧のように、雄の婚姻色は濃厚で、息を呑むほどです。しかし、この場所の透視度は30cm程度しかありません。ハゼのような底ものを撮影するならまだしも、遊泳系の魚を撮影するにはほぼ限界の透視度です。水草や石の側で摂餌に来るのを待ち伏せるか、産卵母貝であるドブガイを捜すしかありません。どうしたものかと思案しつつふと先を見ると、ニッポンバラタナゴがヒラを打っています(ヒラを打つ:摂餌などのために体を一瞬斜めにすること)。これは摂餌だと思い、ゆっくりと近づくと、どうやらドブガイの周りで繁殖活動を行っている様子です。これは運がいい! ここで張れば透視度30cmでも撮影できそうです。

 透視度が期待できない場所では、こうした事態に備えてポートの仕様を工夫しています。レンズは24-120mm相当のズームレンズにし、魚眼ポートに延長リングを3つ噛ましています(ただし広角側はケラレます)。これにより、光ができるだけ空気中を透過するようにします。こうすれば撮影距離40cmでも、うち20cm分は光が空気中を通過すれば、濁った水は20cmで済むため、ある程度クリアに撮影することができるわけです。その代わり、ポート先20cmまで被写体に寄らなければなりません。ファインダから目を離して水中を見ても40cm先は濁っていて何も見えませんが、ファインダを覗けば被写体を確認することができるわけです。というわけで、ドブガイ(どうやら移入のマルドブガイっぽいですが・・・)を見ながら待ち伏せし、繁殖行動の撮影開始です。

 このような小魚を撮るのに通常は広角を使うことはありませんが、できるだけ寄って美しい色彩を写し止めるため、28mm相当で撮影したものです

ニッポンバラタナゴ2(嘉瀬川)

2.マルドブガイに群れる雄

オリンパスE-3 ZD12-60(32)/2.8-4 f8 1/125 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 タナゴ類の産卵は通常は1匹の雄が一つの貝に縄張りを形成し、そこに雌を誘い込んで産卵させるのですが、ニッポンバラタナゴは集団産卵も行うようです。追い払うこともなく、仲良く貝覗きをしています。産卵管の伸びた雌が貝覗きに来るかと思えば、婚姻色艶やかな雄も次々にやってきます。どれか優位な一個体が縄張りを持つ、という感じではありません。また、雄が他の雄を追い払うのも明確には確認できませんでした。このため、ヒレを開いて威嚇するということも観察されず、なかなかヒレを開きません

ニッポンバラタナゴ3(嘉瀬川)

3.出水孔を確認している雌雄

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/250 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 いわゆる貝覗きです。雄は雌を追いかけ回しはしますが、連れてくるという行動は明確には確認できませんでした。雄も雌もこの貝に適宜やってきては貝覗きをしています

ニッポンバラタナゴ4(嘉瀬川)

4.マルドブガイに近づく雌

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/250 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 産卵管の伸びた雌がマルドブガイに接近しています

ニッポンバラタナゴ5(嘉瀬川)

5.雌の産卵

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/125 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 小さな雌が産卵している瞬間です。他にも雌が3個体います。ヒラを打っているように見えたのはこの瞬間のようです

ニッポンバラタナゴ6(嘉瀬川)

6.雄の放精

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/125 Z-240×2(TTL)

嘉瀬川 5月 水深30cm

 放精の瞬間と思われます。他の雄も突っ込んできています。

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