ウケクチウグイ

(コイ科 ウグイ亜科 ウグイ属)

Tribolodon nakamurai Doi and Shinzawa, 2000

ウケクチウグイ(阿賀野川)

絶滅危惧ⅠB

ウケクチウグイの幼魚

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/60 Z-240×2(TTL)

阿賀野川 8月 水深30cm

 本種は新潟以北の本州日本海側の大河川に生息するウグイ類です。陸封ではありながら、ウグイ属中最も大型となります。環日本海でも日本以外では確認されておらず、日本固有種です。

 本種は昭和38年、中村守純博士が、賀野川水系只見川で見いだされた標本に基づき、「ウケクチウグイ」との新称を提唱、「只見川水系の人工湖にウグイと混生するが、尾数は多くない」としています(「原色淡水魚類検索図鑑」 北隆館 昭和38年)。一方、宮地傅三郎博士らは、「詳しい記載は未だ発表されておらず、またウグイの類が1河川の人工湖のみに分布していることは、単なる変異であろうとの疑問を打ち消すに十分でない。区別するとしても、型ではなかろうか」としていました(「原色日本淡水魚図鑑(全改訂新版)」 保育社 昭和51年)。

 なお、本種は地元では古くから「ホオナガ」「ツラナガ」といった顔が長いという特色から他のウグイとは別物と認識されていたようで、例えば明治時代の『両羽博物図譜・両羽魚類図譜』(松森胤保)では「ホオナガバエ」の名で、ウグイ、マルタ、アブラハヤとは別物として記載されており(本間義治 「ウケクチウグイ-この著名な未記載種の由来と将来」 『淡水魚保護4号』 1991 淡水魚保護協会)、その図版はウケクチウグイそのもののように見えます。

 本種の位置づけは長らく定まっておりませんでしたが、その後の研究により、遺伝的分化を遂げていること、他のウグイ類とは交雑しないことが確認され、平成12年に新種記載されました。種小名"nakamurai"は前述の中村守純博士に献名されたものです。

 本種は個体数が少ないとされており、通常時に遭遇することは困難と考え、繁殖の際に瀬に集まったところを撮影しようと梅雨期に訪れてみました。しかし、川の各所を覗いてみても全く繁殖の気配がなく、水に入っても、いるのはウグイやアブラハヤばかりで、撮影はおろか遭遇さえできませんでした。その後、繁殖期にこだわらず、「ここなら出会えるかもしれない」という場所を探し、未成魚ですが支流の淵で遭遇、撮影に成功しました。

 撮影場所にはウグイ未成魚も多数生息しているうえ、私自身は生きたウケクチウグイは見たことがなかったので、慎重に見極めました。しかし、後述するように水中での挙動が明らかに他のウグイ類と異なっており、判別は可能です。

 外見上、本種は①和名のとおり受け口で吻が長い、②体側及び頭部の黒い縦条が明瞭、③吻の先端が黒い、といった特徴があります。

 写真の個体は10cm程度の幼魚で、この場所では数匹確認しました。瀬から淵への落ち込み(淵頭)付近の緩流部です。ウグイに比べると個体数は圧倒的に少ないです。

ウケクチウグイ(阿賀野川)

肉食魚の様相

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f8 1/60 Z-240×2(TTL)

阿賀野川 8月 水深30cm

 口を大きく開けた状態です。オオクチバスのような肉食魚を思わせます。

 水中で観察した限り、本種は以下のような行動を取っており、他のウグイ類とは明らかに挙動が異なります。

 ①底層ではなく中層を泳いで頻繁にライズし、ウグイのように川底をつつかない。

 ②魚食魚のように口とえらを大きく広げる仕草をし、これを頻繁に行う。

 ③他魚とは群れず基本的に単独で行動する。

 ④警戒心が比較的薄く、撮影者の周りを一定の距離を保って円弧を描くように何度も往復する。

 本種は魚食性とされており、特に②は、このことを強く示唆するものです。

 また、④も魚食魚的な行動で、この性質のため、発見さえできればバス、ギル同様、撮影は容易です(少なくとも未成魚は)。ただし、立体的によく動くため、しばらく行動パターンを観察する必要があります。  ②の証拠写真を撮るのは少々難しく、2日間かけて、ようやく1枚だけ撮影できました。口を開けるタイミングも予測できないため、その瞬間を捉えるにはかなり粘る必要があります。

 なお、2日間の観察に過ぎませんが、午前中はあまり活動しないらしく、発見できませんでした。14時頃から出現しました。水温や時刻が活性に関係あるのかもしれません。

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