アマゴ/サツキマス

(サケ科 サケ属)

Oncorhynchus masou ishikawae (Jordan and McGregor, 1925)

アマゴ(太田川)

アマゴの未成魚

オリンパスE-3 50/2マクロ f8 1/90 Z-240×2(TTL)

太田川 8月 水深50cm

 私自身は上流に行く機会はあまりないのですが、イシドジョウを探しに行ったときに併せて撮影してきました。

 この個体は、アユカワムツオイカワムギツクズナガニゴイと同所的に見られました。瀬に定位して、餌が流れてくるのを待っています。

 じっとしていればかなり寄れるので、撮影はさほど難しくありません。しかし、ライズした瞬間など、下からのアングルになってしまう場合はフラッシュが魚体反射してまともな写真になりませんでした。平凡ですが素直に撮影したものを掲載します。

サツキマス1(長良川)

産卵床を掘るサツキマスの雌

オリンパスE-3 ZD12-60(29)/2.8-4 f8 1/60 Z-240×2(TTL)

長良川 10月 水深30cm

 サツキマスはアマゴの降海型で、かつては淀川(ビワマスも含まれている可能性あり)や天竜川にも多産しましたが、現在は一定の個体数が遡上する河川は木曽三川や太田川などに限られています。かつてはビワマスと同一種とされ、アマゴの降海型はビワマスと呼ばれていました。

 「サツキマス」という名称は、長良川河口堰反対運動が盛んだった昭和末期から平成初期に広まったようで、反対運動のシンボルとなった魚でもあります。昭和48年には和名として「アマゴマスとでも呼ぶべきであろう」との提案がなされていました(加藤文男『伊勢湾で獲れたアマゴの降海型について』魚類学雑誌)。

 平成11年頃から、長良川のみならず木曽三川のサツキマスの岐阜市場への入荷数は減少傾向にありますが、私自身は伊勢湾の冬期の水温が上昇していることが影響しているのではと勘ぐっています。

 ここ長良川では、現在でもサツキマスはそこそこ遡上はしているようです。しかし、秋までに大部分が漁獲されたり、釣られてしまうらしく、産卵に至る個体はごくわずかです。有名になってしまったことが仇となって、全国各地から釣人がやってくるようになったことも影響していると言われています。ちなみに、私が撮影地付近で確認できた産卵床は2つのみでした(一つは産卵が終わっていました)。

 下流側から怪しそうな場所を探していると、ある瀬尻で、桃色に包まれた立派な雄(以下「真打」と呼称)が、雌を従えて産卵床に陣取っていました。サツキマスは雌が多く、雄は非常に少ない(アマゴの雄とペアを組むことが多いらしい)のですが、意外にあっけなく見つかったので、拍子抜けしたくらいです。しかもいい色の出た雄です。

 しかし、問題はここからでした。産卵床は淵尻の砂利大の礫底に形成されることが多いようですが、この産卵床は大岩と小岩の間の瀬で、非常に撮影しにくい場所でした。おまけにこの真打はおそろしく警戒心が強く、いったん逃げるとおいそれとは戻って来ません。この大岩と小岩の間の瀬は幅70cm程度しかないため、横から撮影するには小岩の隙間の陸から身を乗り出さなければなりません。この体勢で警戒されずに接近するには相当の慎重を要しました。もっと撮影しやすい産卵床はないものかとかなり広範囲を探し回りましたが、現役の産卵床はここしかありません。

 このため、カメラを産卵床の横に置いていったん去り、サツキマスが産卵床に戻ってきたら小岩の間から身を乗り出し、カメラ取って構える、という戦略を採ることにしました。しかし、この場所は瀬尻で流れも早く、カメラを固定するのも楽ではありません。流されないように石をうまく積み上げて固定します。

 産卵床を掘り始めた雌の警戒心はさほどでもなく、じわじわと寄れば直近で撮影できます。フラッシュもあまり気にしません。サツキマスはビワマスと異なり体側にアマゴ同様朱点がありますが、間近で見るとそれがはっきりと分かります。

 雌が産卵床に陣取ると、まずアマゴの雄がやってきます。雌は雄がアマゴだろうがサツキマスだろうが気にせずマイペースで穴を掘っています。雄は産卵床付近で小競り合いをします。

サツキマス2(長良川)

淵で休憩する雌

オリンパスE-3 ZD12-60(37)/2.8-4 f9.5 1/90 Z-240×2(TTL)

長良川 10月 水深60cm

 ところで、雌は常に産卵床にいるわけではなく、ときおりふっといなくなります。捜すとたいてい下流の淵にいます。尾びれの下部が欠けており、上の写真と同じ個体です。私の存在に嫌気がさしたのかのかもしれませんが、穴掘りに疲れて休憩しているようにも思われます。

 雌が産卵床からいなくなっても、雄が産卵床で定位することがあります。多くはアマゴの雄です。しかし、しばらく雌が戻って来ないと下流側の淵に下がります。

 一方、真打のみは下流の淵には行かず、上流側のもっと複雑で深い淵に逃げ込んでいることを確認しました。岩の奥に逃げ込んでおり、おいそれとは出てきません。

サツキマス3(長良川)

サツキマスのペアとアマゴの雄

オリンパスE-3 ZD12-60(26)/2.8-4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

長良川 10月 水深30cm

 雌が下流の淵から産卵床に駆け上がると、すぐにアマゴの雄が駆け上がってきます。しばらくはアマゴ雄どうしがつばぜり合いをしていますが、そのうちサツキマスの雄がやってきて、アマゴ雄を追い払うようになります。しかし、小回りのきくアマゴ雄は追い払われてもめげずにつきまといます。サツキマス雄も追い払いにエネルギーを要するので、そう頻繁に追い払うわけでもありません。

 劣位の雄は口を開け、口や全身を小刻みに震わせますが、これは雌に産卵を促す行動です。「真打が来る前に産め」ということなのでしょうが、雌は我関せずで穴を掘っています。逆に真打は観察中はこの行動を行いませんでした。

 サツキマスどうしのペアが成立しても、真打ちはちょっとやそっとでは現れません。しかし、何の前触れもなく不意に上流側から現れます。そのタイミングは計りしれませんので、じっと待ち構えるしかありません。

 真打が現れるとサツキマス雄はあっという間に追い払われれしまいますが、アマゴ雄はしぶとくつきまといます。写真はその様子です。雌はこれら一連の雄の交代劇には無関心です。

 真打は非常に警戒心が強く、フラッシュを焚いただけでさっと逃げてしまいます。この谷は午後になると日が当たらず、自然光での撮影ができません。結局2枚しかシャッタを切ることができず、写真はそのうちの1枚です。そうこうするうちに日暮れが近づき、ツキノワグマの出没が怖いので引き上げました。サツキマスは個体数も少ないことから、産卵を見るのは相当大変だと実感した次第です。

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