フィールドでの水中撮影は困難だと思っていた種で、実際、水中で出会うまでには長い年月を要しました。(他に琵琶湖周辺で難物だったのはワタカ)
古い記録から現在までの状況を俯瞰すると、本種には琵琶湖本湖で季節により水深移動する個体群と、内湖や周辺水路を中心に通年定住する個体群がいるようにも思われます。仮にそうだとして、後者を撮影しようにも、透視度が極めて悪くて絶望的です。とすると前者を撮影するしかないのですが、琵琶湖の個体群が浅場(それもスノーケルの範囲内)に上がってくることがそもそもあるのか、あるとすればどの季節なのか、どこなのか・・・。タンク背負って潜れば遭遇できる確率は上がるのですが、スノーケリングの限界に挑戦してみたい、という思いもありました。
これまでの琵琶湖での撮影経験、本種や類似種の生態などから、この時期、ここならひょっとすると出会えるかも、という時期、場所を探り、ようやく遭遇することができました。
さて、本種とスゴモロコの外見は非常によく似ており、相当見慣れた人でも「うーん、どっちかな?」と悩むそうです。スゴとデメの間に交雑が珍しくないことも原因の一つです。図鑑などでは口ひげの長さが相違点とされていますが、水中では分かりませんので(そもそも識別点として適切か疑問とすら思っている) 、実践的には以下の総合判断に依りました。
①体形 背側の体型は、背びれ基底を変曲点として、前側が膨らみ、後側は直線的ないし凹む。また、体高が高く、ずんぐりしている。(スゴモロコでは変曲点がなく、全体になだらかに膨らんだ曲線。体高も低くスマート。)
※琵琶湖の漁師がスゴモロコを「ゴンボウスゴ」と呼んでいるのは、ゴボウのように細長く一様で体形の起伏に乏しいからか?
※琵琶湖の漁師がデメモロコを「ヒラスゴ」と呼んでいるのは、体高が高くてスゴよりも平べったく見えるからか?
②目の位置 目が上に付いていて、頬が広くて張り出している(スゴモロコは目が顔の中央に近い)また、目が上付きな分、飛び出して見える。
※琵琶湖の漁師がデメモロコを「オタフクスゴ」と呼んでいるのは、頬が広いためか?
③吻の尖り具合 尖っている(スゴモロコは丸っこい個体が多い)
④頭の大きさ 大きい(スゴモロコは相対的に小さい)
かつては体側中央の暗斑の有無も識別点(デメ:ない、スゴ:ある)とされてきましたが、水中で観察した限り、生時はデメモロコにも例外なく暗斑列があり(数が少なく、色も薄いが)、明確な識別点にはならないと感じました。ちなみにデメモロコを水中から上げると暗斑列は消滅します。
※「日本産魚類検索 全種の同定」(平成25年第3版)では、暗斑については識別点に含まれていない。
以上を図解すると下図のようになります。(ただし、①-④はいずれも傾向であって、総合判断が必要)
さて、浅場における水中での挙動ですが、明らかにスゴモロコとは異なります。
スゴモロコが少なくとも4-5匹以上の群れで「スーッ」と起伏なく忍者のように底層を移動するのに対し、デメモロコは単独、あるいはせいぜい2-3匹の緩い群れで「ぴょんぴょん」跳ねるように泳ぎ回り、より活動的に見えます。とはいえ中層以上に上がることはなく、底の方のみを泳ぎます。
なお、琵琶湖のデメモロコの挙動は、デメモロコ濃尾型とも全く異なります。濃尾型はほぼじっとしています。水温や季節の違いもあるかもしれませんが、琵琶湖のデメモロコはえらく活動的だったので、全く違う印象を持ちました。
午前中は少し深い場所に待機しているようで、水温が上がってくる昼頃から浅場に出現します。水温の高い夕方頃には、かなり浅い場所でも見られました。
この写真は7月中旬に撮影したもので、スゴモロコはほとんどおらず、ほぼデメモロコでした。肥えて色つやもよいことから、産卵の前と思われます。同じ場所は、一月くらい後になるとほぼスゴモロコに置き換わっています。(これが普遍的かどうかは不明)。