本種は純淡水性のトミヨで、背びれ軟条直前の棘が短いことが他のトミヨ類との違いとされています。実用的には、かりんとうのような寸胴の体型をしているのが本種の特徴です。
本種を撮影したのはドン深な沼で、入っていきなり多数の幼魚を確認することができました。写真はその幼魚で、幼魚は「群れをつくっている」というほどではありませんが、緩くて疎な塊をなしています。表層で口をぱくぱくやっているので、動物性プランクトンを食っていると思われます。この大きさ(全長1-2cm)では鳥に狙われることもないでしょうから、表層で摂餌することができるのでしょう。
一方、成魚は底の方にいて、警戒心が強く、すぐに植物の間に隠れてしまいます。そして引っ込んだら出てきません。沼がドン深なので、全くたどり着けず、撮影できません。なお、エゾトミヨは通常このような深い場所には生息しておらず、上流域の細流などに生息しています。
ところで、表層には少数の成魚がそれぞれ単独で見られます。写真のようにごく表層(水深0-5cm程度)をジグザグに泳ぎ、かつ、警戒心が全くありません。自分からカメラの前にやってくるくらいで、底層にいる用心深い成魚とは明らかに挙動が異なります。老成個体で脳に異常をきたしているのかな、と思いましたが、よく見るとこれら成魚は腹の一部が膨らんでいたり、逆にぺちゃんこになっています。
実は太平洋イトヨ(淡水型)で、条虫の寄生によりこのような行動が引き起こされることが知られています。この条虫にとってイトヨは中間宿主で、最終宿主は水鳥です。条虫はイトヨの神経系を支配し、イトヨを表層で泳がせ、水鳥に食べられるよう仕向けると考えられています。イトヨが水鳥に食べられると、条虫は最終宿主である水鳥にめでたく寄生できるわけです。寄生されたイトヨの腹は膨らむなど変形することが知られています。詳細は森誠一「十和田湖沿岸域の魚類、特にイトヨの生態を中心に」(国立環境研究所研究報告第146号 1999)をご参照ください。
ここのエゾトミヨも、同様の条虫に寄生されている可能性があり、そうだとすれば上記の行動も理解できます。
そうした目であらためて幼魚を見てみると、2cm程度の幼魚にも、腹が一部膨らんだ個体が見られます(眼径程度の大きさ)。これらも既に条虫に寄生されているのかもしれません。