平成23年の東日本大震災で、大槌町は沿岸の市街地を津波が襲い、街は流され、壊滅的な被害を受けました。その後、低平地には各所で湧水(自噴水)が出て、あちらこちらに新たな湧水のタマリを作っていました。元々はこのような湧水湿地が沿岸に広がっていたのでしょう。
これら湧水タマリの一部は海とつながっており、ニホンイトヨが遡上してきます。一方、もともと上流の湧水域に生息していた太平洋イトヨ淡水型が、津波の引きとともに流下してきました。この2種が、新たに誕生した低平地の湧水タマリで交雑し、写真のイトヨが生まれたものと考えられています。とすれば、新しいイトヨ集団が誕生したことになります。(詳しくは森誠一先生の『津波震災を乗り越えた大槌町のイトヨ』魚類学会誌 2013 http://www.fish-isj.jp/iin/nature/article/pdf/6002_series.pdfなどをご参照ください。)
露出を地上に合わせ、フラッシュは水中内にとどまるよう下げ、巣の前にピントを合わせてチャンスを待ちました。魚体反射を避けるため少し俯瞰気味に撮るのですが、体勢的にはかなり苦しいところです。下方中央に婚姻色の出た雄が、左方に未成魚の群れが見えます。
写真にあるように、復興工事の巨大なクレーンが見えます。一部の湧水域は公園区画などとして残される計画です。
巨大な津波の被害を受け、塩水にさらわれたにもかかわらず、湧水の存在が陸水生態系の回復に大きく貢献しているのは間違いのないところです。湧水の保全の重要性は論を待たないでしょう。自然災害に対する抵抗性、柔軟性を有する湧水の存在が、復興に当たっても最大限考慮されることを祈ります
私のような素人にはニホンイトヨや太平洋イトヨと形態がどう違うのか、にわかには分からないのですが、研究者によれば「顔つきが違うのですぐ分かる」とのことです。
湧水のタマリとはいっても、6月ともなると浅い場所では水温が上がっているところもあり、イトヨは水温の低い場所に集まっています。写真はくぼみの底に営巣している雄です。なるだけ深い場所を選択しているようです。
1時間程度馴らせば、ごく近くまで接近しても逃げなくなります。ファンニングの向きが決まっていますので、それを確認してから接近します。
画面左方に卵が見えます。