陸封イトヨが起源の淡水魚で、ミナミトミヨが絶滅してしまった現在、世界で最も南部に分布するトゲウオ類です。三重県では絶滅してしまったため、現在は滋賀県と岐阜県にしか分布しません。滋賀県産と岐阜県産では前者がより大型になるなど、かなりの差異が認められるとのことです。
トゲウオ類は北方起源種であり、暖かい地方では湧き水のある場所にしか棲めません。このため、南日本では遺存種と考えられます。それだけに、湧水環境の維持が本種にとっては必須となります。
写真の雄は婚姻色が濃厚で、孵化が近いのか、あまり巣穴から離れず、胸びれを使って懸命に水を送り続けていました。孵化が近づくと、オスはほとんど巣穴から離れず、休まずに胸びれを使って水を送り続けます。当初は魚眼+テレコンで寄ってみたのですが、さすがに大きくは写せなかったので、マクロに切り替えて撮影しました。
ハリヨはフラッシュは気にせず、こちらがじっとしてさえいればあまり警戒しないので、撮影自体は難しくありません。ただ、「ジグザグダンス」といわれる求愛行動はかなり素早く、ピントと構図をいっぺんに決めるのは非常に難しいです。
残念ながらこの生息地には、オオクチバスが侵入していました。オオクチバスのいる場所では、幼魚を見ることはありませんでした。ただし、オオクチバスは親魚は喰わないようで、突進していってもハリヨと分かると反転します。棘が痛い、と学習しているのでしょう。しかし、幼魚は食われている可能性があります。
ハリヨの繁殖行動を記録しました。ただし、産卵までは確認しておりません。(いずれも6月に琵琶湖流入河川にて撮影。オリンパスE-3+ZD50/2マクロ)
雄は藻や枯れ枝などを運んで巣作りをします。この状態では婚姻色はあまり出ていません。
腎臓から出る粘液をこすりつけ、巣を固めています。この時は体を小刻みに震わせています。
縄張りをつくると、侵入してきた雄を追い払います。雄だけでなく、卵を持たない雌も追い払います。
縄張り内に卵を持った雌が入ってくると、雄は接近し、中層で雌と互いに絡みつくように泳ぎます。
動きが早いので撮影には苦労しました。
雌は求愛を受け入れると、中層~表層に定位し、動きません。その際は、背を反らして腹を突き出すような体勢をとります。恍惚としているようにも見えます。
雄は何度か雌を誘い、巣穴へと誘導します。観察した限りでは、3-4回くらいは誘うようですが、雌の方から巣穴に接近していくこともありました。
雄は巣穴の入口まで雌を誘導します。
雄は横に寝て、巣穴の位置を雌に知らせます。しかし、巣穴に入らず逃げてしまうことも多いようです。
雌は雄の誘導に従い、巣穴に入りました。雄は興奮しているのか、すべての棘を立てています。
下の棘を立てると、赤色をしているのが分かります。
しかし、巣の入口が小さかったのか、雌は全身を中に入れることができず、跳ぶように泳ぎ去ってしまいました。
この後雄は、「おかしいな~」といった表情で、自分で巣穴をくぐったりしていました。巣穴を拡張する意味もあるのかもしれません。
結局産卵を見ることは叶いませんでした。