長野、新潟以北の本州に生息するモツゴの仲間です。北海道のものは移入とされています。
モツゴよりも寸詰まりで、吻が突き出て、背も盛り上がる独特の体型をしています。
東海地方に生息するウシモツゴに形態、生態とも酷似していますが、側線有孔鱗数で区別されます。シナイモツゴとウシモツゴは近年別種として分離されました(それまでは別亜種とされていた)。
本種は関東地方では1950年代に絶滅したとされ、それ以外の地域でも生息地の縮小が続いています。
その主な原因は(コイ類、フナ類等に混じっておそらく非意図的に)移植されたモツゴとの交雑とされています。モツゴと本亜種は容易に交雑しますが、第一世代(F1)が不稔(繁殖能力がない)となることが知られています。つまり交雑したが最後、その遺伝子は子孫に引き継がれず、集団全体が次第にモツゴに置き換えられていくのです。
関東地方以外でも平野部ではほぼ絶滅したとされ、現在本種が生き残っているのは山間部のため池となります。
こうした状況からは、以下のようなシナリオが想定されます。
①本種は、東日本では平野部の普通種だった。
②古い時代にフナ類などに伴って山中も含めた各所のため池に移植された。
③平野部は後から持ち込まれたモツゴに置き換わってしまった。
④現在は、他の水系から隔絶された山中のため池に残存している。
⑤それらもオオクチバスやブルーギルの放流や、ため池の管理放棄・改修に脅かされている。
撮影地も、下流はモツゴに置き換わっていますので、下流の魚を上流に移すことは厳に慎まねばなりません(もちろん、バスやギルの放流は特定外来生物法違反で罰則が適用されます。)。
ところで、山形のシナイモツゴ集団は他の集団とは遺伝的にかなり異なっているらしく、研究が進めば「デワモツゴ」とでも呼ぶべき新たな種となるほどのものらしいです。どうも鳥海山付近は氷河期に何らかの地理的異変があったのか、生物が独自の進化を遂げているようで、この集団もその一端なのかもしれません。
撮影地では4月下旬の段階では個体数は多いものの繁殖行動は見られませんでした。
6月上旬に再度入ってみて繁殖を確認しました。この時期になるとジュンサイなど植物が繁茂しており、大きな撮影機材を抱えて前進するのはなかなか厳しいものがあります。また、プランクトンも増えて透視度も落ちており、かなり厳しい撮影となりました。
ウシモツゴが水没した太枝の下面に卵を産み付けていたので、シナイモツゴも同様だろうと思い、枝の下を見て回るのですが、全く見つかりません。日も暮れてきた頃、岸寄りの転石帯で、径30cm程度の石の下にシナイモツゴの親魚を発見しました。見つかり始めると近傍に3箇所産卵床が見つかりました。いずれも大きめの石の下です。
ところが石の下は狭く、そのままでは撮影できません。やむを得ず石を持ち上げ、小石で支えることにしました。雄親はいったん逃げますが、必ず戻ってきて卵を守ります。卵が未発達な雄親は強く黒色を呈しており、目の上部も黒いので怒っているように見えます。一方、卵が発眼している産卵床を持つ雄親は色が抜けています。
卵の守り方はウシモツゴ同様で、下から水を吹きかけるような仕草で、せわしなく卵の世話をします。写真はその様子です。他の雄が通りかかると激しく追い払うのが観察されました。しばらく張りましたが腹の大きな雌は来ず、繁殖行動までは観察できませんでした。
当地での継続的な繁殖を願い、石を元の状態に戻してから去りました。
止水部でちょっと動くだけでも浮遊物が舞い上がるため、鎮まってから撮影するよう努めました。