濃尾平野に分布するモツゴ類で、主に止水部に棲息します。ため池の埋め立て、オオクチバスやブルーギルの放流などにより激減し、現在では生息地は限られています。
シナイモツゴはモツゴと交雑することでF1が不稔となり、衰退していくことが分かっていますが、本種は交雑しないようです。濃尾平野にはもともとモツゴも棲息しますが、両者は何らかの形で生殖隔離していたのではないかと思われます。かつての生息地だった養老郡の用水路と池では両者が共存しており、モツゴは中層から上層、ウシモツゴは常に底層で採集されたこと、産卵期はウシモツゴの方が早いことが報告されています。(内山隆「ウシモツゴの形態と生態」『淡水魚13号』 淡水魚保護協会 1987)
実際に水中に潜って観察すると、水際の植生などで日陰になったところを中心に、水没した木の枝、草などに群れています。時折回遊もしているようです。未成魚は警戒心があまり強くないようで、なかなか逃げません。一方で成魚は警戒心が強く、落ち葉の下などにすぐ隠れてしまいます。ゆっくりと落ち葉を除けても表に出たとたんに逃げるため、全く撮影できません。
成魚を撮影するには、卵を守っているところを狙うしかないと考え、日を改めて撮影することとしました。
木の枝が陸上から覆い被さって一部水没しているような場所に、大型個体が見えました。俊敏に他個体を追い払いながらも持ち場を離れません。これは卵を守っていると思い、ゆっくりと接近します。しかし、覆い被さった木々が障害となり、スノーケルが引っかかるなどしてなかなか思うように進めません。すき間をくぐり抜けながら、やっと近くまでたどり着きました。
最初は卵があるのかどうかもよく分かりませんでしたが、持ち場を離れないということはあるに違いないと考え、より接近すると確かに卵を守っていました。一般に生物は自分がやっと出入りできる程度の場所をねぐらとするので、ウシモツゴも隙間の小さい石の裏に卵を産み付けるのだろうと勝手に思っていたのですが、下が大きく空いたような場所でも卵を産み付けるようです。流れがない場所ため、できるだけ溶存酸素の多い場所を選んでいるとも考えられます。
卵は水深10cmほどに水没した木の枝に産み付けられており、底までは40cm程度空いていました。
卵は孵化済か発眼卵で、産卵後相応の時間が経過していると考えられました。ウシモツゴは地元では「ケンカモロコ」とも呼ばれ、雄の婚姻色の最盛期には全身が黒くなり、目も怒ったようになるのですが、この卵はかなり時間も経過しており、雄の婚姻色も抜けています。各ヒレの端に黒い部分が残っています。この個体はカメラの接近にも動じず、少々逃げたとしても必ず戻ってきて卵を保護しました。100㎜級マクロで撮影していますが、もっと短いレンズでも撮影可能と思います
別の産卵床の雄を撮影していて、他個体が卵を食うところに遭遇しました。この産卵床はやや太い沈木の裏で、底までは20cm程度ありました。雄が他個体を追い払っている間に、雌や未成魚の襲撃を受け、卵を盗み食いされていました。
写真の個体は体を立てて沈木の下を盛んに突いて卵を喰っていました。雄はこれを激しい勢いで追い払っていましたが、何度もやってきては卵をつついていました。