タナゴ

(コイ科 タナゴ亜科 タナゴ属)

Acheilognathus melanogaster Bleeker, 1860

タナゴ1(福島県の河川)

絶滅危惧IB

縄張りを張り、円弧を描くように貝を嗅ぐタナゴの雄

オリンパスE-3 ZD12-60(20)/2.8-4 f8 1/90 Z-240×2(TTL)

福島県の河川 5月 水深30cm

 東日本の太平洋側に分布するタナゴ類です。種小名の「melanogaster」は「黒い腹」で、本種の雄が婚姻色を呈した際、腹部が黒くなることを意味しています。

 本種はタナゴ類を代表する種で、かつては関東地方にも多くの生息地がありましたが、神奈川県や東京都では絶滅し、霞ヶ浦周辺でも大きく数を減らしています。関東北部や東北地方にはまだ健全な生息地がありますが、河川や水路の改修は着実に進んでおり、予断を許しません。

 ちなみに2日間にわたって観察した限りでは、タナゴは大型のカワシンジュガイには関心を示しますが、小型の貝には関心を示すことはありませんでした。

 雌はたいてい中層で群れていますが、ときおり降りてきて、集団で貝覗きをすることがあります(縄張りが形成されていない貝の場合)。

 雌が主に中層を群れで遊泳しているのに対し、雄は主に低層を巡回しています。貝への関心には流行り廃りがあるようで、タナゴが群れたり群れなかったりの状態が続いていました。日が高く昇るにつれ、だんだん雄たちも興奮してきて、婚姻色が濃くなり、またギラギラと輝くようになります。大きめの雄3-4匹が貝を巡って争うようになっていきます。そのうち、最も大型で色も濃い雄が貝を独占するようになります。この個体は背びれ、腹びれ、尻びれが黒くなり、学名のとおり腹の下部も黒くなっています。この雄の強さは圧倒的で、平行遊泳や回転闘争は起きませんでした(威圧のみが見られました。)。

 縄張り雄は、カワシンジュガイの外縁部に沿って円弧を描くように体を付けたまま貝を嗅ぐ行動を見せます。この「円弧」行動は繰り返し見られました。縄張り雄が離れた際は他の雄がこの行動をとっているところも観察されました。この行動が何を意味しているのかは分かりませんが、アブラボテでも同様の行動が見られます。

 タナゴは最初のうちはフラッシュに驚き、散ってしまいますが、やがて慣れ、逃げなくなります。特に縄張り雄は、こちらが1時間もじっとしていると慣れ、少々動いても動じなくなります。ここまで持ってくれば、ベタ寄りで広角側でも撮影可能となります。

タナゴ2(福島県の河川)

上層の群れと雄の闘争

オリンパスE-3 ZD12-60(19)/2.8-4 f8 1/125 Z-240×2(TTL)

福島県の河川 5月 水深30cm

 上記とは別の雄が、カワシンジュガイに縄張りを張っています。この雄は貝1個のみならず、近辺の他の貝にも縄張りを張るようになり、最終的に3個の貝に縄張りを張りました。いずれも大型のカワシンジュガイです。この雄の強さは圧倒的で、全く他の雄を寄せ付けず、3個の貝を守っていました。写真は追い払いをしているところですが、上層にいる雌の群れはこうした雄どうしの素早い行動に刺激され、繁殖への意欲を高めるのではないかと思われます。この写真でも雌が1匹、上層から貝に向かっています。

 縄張り雄は貝に対して何度も激しくヒラを打つ行動も見られます。これも雌へのアピールのように思われます。

 雌の誘い方には二つのパターンを確認しました。

①雄が直接誘うパターン:

 上述のとおり、雌の群れは主に中層部を回遊しています。時折縄張り雄は雌を誘いに行きます。誘い方は激しく、雌は逃げますが雄は素早く追尾します。誘いに乗った雌は貝の付近まで来て、ぐるぐると旋回する婚姻遊泳を見せます。

②雌が自ら貝に来るパターン:

 この写真のように、雌が集団から離れて勝手に貝覗きを始める場合です。雌は貝に定位してしばらく貝覗きをしますが、これを雄が見つけると、婚姻遊泳が始まります。婚姻遊泳を経て雌を貝に再度連れてきます。

 貝のすぐ横で雌は雄の下に入り、雄はヒレを小刻みに振るわせています。この状態から雌は貝覗きをしますが、どういう過程で産卵に至るのかは今ひとつよく分かりませんでした。雌は必ずしも雄と同じ向きでいるわけでもないですが、産卵っぽい行動の際は、上流側を向いて定位していました。

タナゴ3(福島県の河川)

>タナゴの雌雄

オリンパスE-3 ZD12-60(19)/2.8-4 f8 1/125 Z-240×2(TTL)

福島県の河川 5月 水深30cm

 雄は中層にいる群れから雌を連れてきて、貝覗きをさせます。このときの雄は興奮しており、ヒレや体を小刻みに震わせ、明らかに他の状態と異なります。なお、この際雄まで付いてくることがあり、その場合は闘争が起き、ペアリングには至りません。

 雄は自分よりも大きな雌を連れてくることがありますが、産卵には至りません。タナゴでは一般に雌は自分より大型の雄でないと婚姻相手として選ばないらしいです。写真のように小型の雌だと産卵の可能性があり、このようなチャンスは何度かあったのですが、明確に産卵と言える瞬間は写真に収めることができませんでした。この写真は一見産卵しているかにも見えますが、産卵管は貝に入っていません。

 全体に、タナゴの繁殖行動は、強力な縄張り、上層部での雌の群れの待機、雌の誘因といった点で、イタセンパラの産卵行動と類似しているように思えます。

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