神奈川県・新潟県から岩手県・秋田県まで生息する秋産卵型のタナゴ類で、日本固有種です。東京都、神奈川県では既に絶滅したとされ、一大生息地であった霞ヶ浦周辺ではタイリクバラタナゴ、オオタナゴ、カネヒラなどの競合種の移入、オオクチバスやチャンネルキャットフィッシュのような肉食魚の移入により、ほぼ絶滅状態となっています。霞ヶ浦では、かつては大群をなして岸寄りに産卵に来ていたらしいです。
福島県でも浜通に生息地がありましたが、東日本大震災の津波及び復旧工事により、現在は確認されておりません。
宮城県の伊豆沼周辺も一大生息地でしたが、1990年代にオオクチバス、ブルーギルが持ち込まれ、壊滅状態となっています。現地の保全団体が復活に向け、熱心な保全活動を続けています(2015年、約20年ぶりにゼニタナゴが確認された)。
1980年代までは比較的普通種だった本種は、現在、確実な生息地が宮城県・岩手県・秋田県で計10カ所程度しかなく、絶滅の危険が極めて高い状態となってしまっています。
撮影地では、二枚貝が多数あるごく浅い岸寄りに繁殖に来るようで、ドブガイ(タガイ)に産卵します。時間的には水温の上がる12-13時頃、盛んに行動します。16時頃を過ぎて日が傾いて暗くなると、浅場からいなくなります。日光は気にしないようです。
私は撮影のためずっと同じ場所でじっとしていたのですが、16時頃、撮影を切り上げようとすると、自分の体の下に、1匹の雄がいました。動きが鈍く、こちらが少々動いても逃げませんでした。休息しているようです。このことからすると、ゼニタナゴは繁殖のためにごく浅場の貝のところに来ますが、ねぐらはやや沖合の障害物の下であろうことが示唆されます。浅場では高速遊泳しているなど繁殖に関わっていると思われる個体以外は見かけませんので、通常は、産卵を控えた雌も含め、ほとんどの個体はやや深い、安全な場所にいるように思えます(透視度が悪いので詳細は分かりませんが)。
本種の繁殖形態は、カネヒラやキタノアカヒレタビラに類似しているように思えます。すなわち、気に入った貝はあっても、雄はその貝の直上に常駐するのではなく、集団で泳ぎ回りながら深場にいる雌を誘引し、産卵する、という様式ではないかと推測されます(今後、注意深く確認する必要があります)。
陸上からの観察では、雄どうしが素早く浅場に来たり、沖に戻ったりしています。これら雄に、数匹が従って付いてきますが、これらは雌と思われます。浅場の貝に縄張りを張るのは危険と分かっているのか、特定の貝に目星は付けるものの、そこに長居するのではなく、時折様子を見に来て、雄どうしで争いながら雌を誘引し、繁殖に至るのではないかと思われます。
さて、写真は雄どうしの闘争的遊泳です。これは比較的頻繁に観察された行動です。雄どうしの高速遊泳や、闘争によりギラリと光ることで、やや深場に待機している雌を惹き付け、繁殖への参加を促すのではと考えています。雌を浅場に連れ出すことは、雄にとって共通の利益が得られる、ということかもしれません。
撮影地の透視度は30cm程度しかない上、高速で泳ぎ回るので撮影は難しいのですが、水中で観察しているうちに、ゼニタナゴの一団が通過すると、他の群れが通過する可能性が高いことが分かりました。闘争の興奮が伝わって、別の闘争を誘引しているのかもしれません。実際に次の集団が通るので、これを撮影したものです。
高速で泳ぎ回る一団とは別に、ごく岸寄り、水深10-15cm程度の浅場に、たびたび同じ雄が沖からやってくるのを確認しました。最初は何故この場所にやってくるのか分かりませんでしたが、ここにはタガイがあり、ここを繁殖場所にしようとしているらしいことが分かりました。この雄は同じ場所にやってきて、しばらく滞在し、また沖に戻る、という行動を繰り返していました。このタガイに興味を示しているものと考えられました。闘争をしている雄とは行動が異なり、動作が比較的ゆっくりなため、撮影は楽でした。
なお、本種は大型の貝は選択しないようで、観察した限りでは小型の貝を好むようです。また、ごく浅場の貝を選択するようで、これは溶存酸素が豊富という観点からかもしれません。
しばらくすると上記雄は、1匹の雌を連れてきました。写真はその模様です。
高速遊泳などの一次的闘争の結果、繁殖集団に加わった雌を、この雄が何らかの形で誘引したものと思っていますが、どうやって他の雄から競り勝ったのか(何らかの二次的闘争があったのか)は把握できていません。
これでも被写体まで30cm程度なのですが、何せ濁りが強く、コントラストが低いため、さらに寄って待機しました。案の上、雄が雌を連れてやってきました。しかし、カメラが揺れてしまい、雌雄は沖に逃げてしまいました。その後、必ずまた来ると信じて待ち続けたものの、ペアは二度と来ることはありませんでした。
これまで述べたように、イタセンパラ やタナゴのように、一匹の雄が強力な縄張りを形成する場面は見られませんでした。撮影地では繁殖場所がごく浅場で危険にさらされるため、雄が貝の直上を中心に縄張りを張る、という状況が生じないだけかもしれません。